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工房むうあと鉄の手仕事

鉄の彫刻家、吉田正純の手仕事、彫刻や展覧会の紹介、万善寺住職活動など、さまざまな日常を公開します。

小説の街 

2015/05/31
Sun. 23:36

坊主の手間替え大般若会へ出かけた。
さすがに、病院へ衣を着て出かけるのも気が引けて毎日地味なカジュアルで通していたから、久々に法衣を着た気がする。ようするに、5月の半月間は万善寺の坊主収入もないままほぼ毎日寺暮らしをしつつ老僧の病室へ通っていたということ。

固形物を食べなくなって点滴の水分補給のみで半月持ちこたえている老僧はなかなかの体力と感心すると同時に、現代医療の凄さを実感する。
私の方は、老僧のとなりに仕事を持ち込んでそれに没頭するのもどうかと思うから、彼の安静を気遣いながらジッとして時を過ごすしかない。さすがに何時間も瞑想にふけることも難しいから、ひたすら読書に励んでいる。最近は、だいたい200〜300ページくらいの単行本や文庫本を1日1冊ペースで読み倒している。

まだ東京で暮していた頃に買ったものを捨てないで島根まで持ち帰って、寺のロフトで埃にまみれていたものを再読しているから、昭和の50年代のものがほとんど。
今こうして読み返していると、あの頃の私の東京暮らしの様々な出来事がけっこう鮮明に思い出されて気がつくと小説の街と自分の暮していた街が入り乱れて混ざり合って不思議な世界にハマってしまっている。

10年で4回引っ越しをした。
まだ国電だった山手線や中央線や青梅線。
それに、小田急、京王、西武や地下鉄丸ノ内線に銀座線・・・
最寄り駅からアパートまでの商店街や町並みの様子。
何度も通い続けていたアチコチの2番館の椅子の感覚。
銭湯までの道のり。
入り浸っていた飲み屋。
授業をサボって出かけた小旅行。
新譜のアルバムを買っていたレコード店。
待ち合わせやたまり場にしていたジャズ喫茶やロック喫茶。

それになにより、買った本屋さんのブックカバーが懐かしい。その町の駅前の本屋さんの書店名やアドレスを見ると店内の様子までハッキリと思い出してしまう。
これも老僧が引き合わせてくれた何かの縁だと思う。
こうして特に介護の手をかけることもなく、毎日ただただ静かに病室で付添っているだけのことなのだが、そのおかげてこうして昔の本を再読している。こういうことでもないと、結局一回読んだ本は二度と同じページを開くことがないまま、寺のロフトで埃をかぶりネズミにカジられどんどん風化してやがて古紙で廃棄されるか焼却されておしまい。

5月の日差しが例年になく焼けつくように暑く感じる。
それでも病室に吹込むそよ風は山の冷気をはこんで心地良い。

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2015-05