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工房むうあと鉄の手仕事

鉄の彫刻家、吉田正純の手仕事、彫刻や展覧会の紹介、万善寺住職活動など、さまざまな日常を公開します。

展覧会事情 

2016/09/04
Sun. 20:00

展覧会最終日の朝はあわただしく始まった。
会場当番へ出かける前に、昨夜クリヤ塗装を終わらせた鉄の椅子を工場まで取りに行った。
夜のうちに降った雨がそろそろ乾き始めている。どうりで昨夜は蒸し暑くて寝苦しかった訳だ。
搬入先のショップの玄関先へ高さ2m位の椅子を依頼の文字原稿と一緒にデンッ!と置いて奥出雲町へ向かった。

台風の情報は全く入っていないからよく分からないが、むせかえるような蒸し暑さと、会場前の桜の葉がソヨとも動かないほど風の絶えた状態が不気味だ。
OPENの準備をしていたら、近所の蕎麦屋さんが最終日だからといって生どらをドッサリ差し入れしてくれた。しばらくして8人の来場がお昼前まで五月雨に続いて、それから、朝の無風状態の如く客足がピタリと止まった。
多分、このままcloseすることになるだろうと予測して、会期中セッセと飲んでいたファミリーマートのLサイズコーヒーの空きコップへ麦とホップを入れ替えてチビチビ飲んでいたら、会場入口のテラスの手摺で一羽の鳥が羽を休めているところを発見した。
今回の彫刻展では、人間の他に可愛い犬が一匹鑑賞してくれた。打ち止めは一羽の(地味なたぶんカワガラスだと思うが)鳥になってしまう気がする。

現代彫刻小品展が始まってすぐ、その出品者の一人で九州在住の彫刻家からメールが入った。
こうして、日本国の辺境島根の山峡奥出雲で初の彫刻展開催の同時期に、九州の私設美術館が閉館となったらしい。
石橋美術館は、私が島根にUターンして間もない頃、九州の幾つかの美術館を巡ったことがあってその一つだった。石橋美術館というと、あの東京のブリヂストン美術館の石橋さんと縁が深い・・というより、むしろ九州のほうが石橋さんに近い美術館であると認識していた。そもそもブリヂストンの命名が「石橋」の「Bridge Stone」にちなんでいるというあたり、洒落た命名だとノリの軽い私としてはそれなりの親近感を感じていたのだが、その美術館のお陰をいただいて多感な幼少期を過ごした九州在住の一彫刻家の悲痛な思いがそのメールに託されていた。

島根の田舎に暮らしていると、ほんの数年で山峡の集落ひとつが限界集落になって、それからまた数年の間にゴースト集落になってしまうという現実と日々向き合っている。
この近年、墓地墓石の相談や絶縁で空き家になったお仏壇や位牌、朽ち果てつつある集落のお堂の相談が急激に増えている。
石橋美術館にしても、見方を変えれば石橋家の長い歴史の中で繰り返された世代交代のあいだに、少しずつふるさととか先祖の守り伝えてきた色々なものへの執着が希薄になって帰属意識が失せてきたのだろう。自分の暮らしに具体に何かしらの影響を受けるとすると、やはり生まれ育った環境に頼るだろうし、それに執着することになるだろう。今の日本の経済状態を背景に現実の打算もどこかしら影響しているかもしれない。個人の感傷に心が動かされることとなるとなかなか厳しいところでもあろう。

現代彫刻小品展のような展覧会は、私の生活や暮らしの本拠地を中心に、聞こえは悪いかもしれないが、文化の未開の地に近い島根の山峡をドサ回りすることで、彫刻のさまざまな表現を身近に見てもらいたいという願いが込められている。
一方で、美術館の閉館という現実があり、また一方では、生涯何処かの美術館に立ち寄ることもなく、本物の彫刻に触れる機会のないままこの世からオサラバする老若男女がいる。
私がこうしてまがりなりにも彫刻を造り続けられているのは、憲正さんが数年に一度松江まで巡回してくる日展へ少年の私を連れて行ってくれたからだ。まだ殆どが砂利道だった国道54号を3時間近くかけて松江まで出かけて夕方日が暮れてから寺へ帰った。当時は、運が良ければ、日展鑑賞の遠足もあった。
美術館のない町で生まれ育った私にとって、展覧会の会場は別世界だった。

特にメールの主の承諾を得ているわけでもないが、そんなわけで、原文から少々抜粋させていただいた。

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こんにちは.誰かに聞いてほしくてメールしています.
有明海と同じ筑後の宝;久留米の石橋美術館が今日でお終いです.
地下足袋からブリヂストンを起こした石橋正二郎氏が地元の為に久留米に美術館を作って60年.坂本繁二郎が早逝の友;青木繁の作品の散逸を心配し,かつて高等小学校での教え子の石橋さんに相談したのがきっかけと聞いています.石橋さんは竹橋の近代美術館も国に寄贈していますよね.市民に文化の贈り物をするなんて偉いと思います.

わたしの初美術館は小学4年生,ここで見たパウル・クレー展でした.その夢のような色彩とユーモア感覚,抽象形のおもしろさにハマってしまいました.
青木繁の「海の幸」はいつ観ても懐かしさと,わくわく感を覚えます.大好きなのは「わだつみのいろこの宮」.縦長の画面にすらりと立つ女性の美しさ,水中にある泉という設定,あぶくのゆらぎ.エメラルドグリーンの空間.あの静謐な画面はすてきです.
他に坂本,古賀春江,黒田清輝,岡田三郎助,百武ケンコウ とすばらしい作品があります.
石橋財団はそれら主だった作品を東京のブリヂストン美術館に引き上げてしまいます.大人の事情なのでしょう.東京のほうが鑑賞する人ははるかに多いでしょう.
しかし,仏像はもとのお寺のお堂で拝観したいし,青木は地元久留米に置いておきたいのです.
いつもそこに「海の幸」(千葉の海を描いていますが)があるという安心感がありました.
なのにあなたまで東京に行ってしまうの?そんなに都会がいいの?
一昨日,絵に涙で別れを告げてきました.  行かないでの署名運動を懸命にやったけれども,3万人超はひねりつぶされました.
選挙も署名もじつは何の力もないものと失望します.
あと1時間半で石橋美術館の看板が下ろされます.
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あのときの椅子 

2016/09/04
Sun. 03:48

暑い夏の間中、何度も通って実現した奥出雲町での現代彫刻小品展も、早いものであと1日が終わればそのまま後片付けに入って撤収搬出になる。
今回の彫刻展は、どちらかといえば会場の雰囲気とか地域の事情とか事務の内容とか開催時期のこととか、そういう展覧会開催に絡む全てのことで様子を見るということと、島根県初の東部地区開催による各種条件のリサーチを兼ねたものだった。
まだ結果は出ていないものの、会期スタートから例の東北北海道を襲った台風の影響による天候の悪化が始まって、途中持ち直したものの、結局週末から最終日にかけて今度は九州上陸のおそれがあるという台風の影響をモロに受けることになった。
台風ばかりは何時何処でどうなるか全く予想の付かないことだから逆らうことなど出来ないしどうなるものでもない。
長い人生、こういうこともあるさ!・・・ということで、あまり正確なデータを残すことが出来なかったが、それでも何かしら地域の刺激にはなったと思うし、「彫刻」に特化した文化活動の存在も少しは地域に知ってもらえた気がする。それに何より、奥出雲町を中心にしたたくさんの人達と知り合いになれたことが自分への収穫になった。

終盤の2日間はワイフが頑張って家事もほったらかして受付をしてくれた。
吉田家がアレコレ乱れてしまうのもしかたがないことだし、こういう人手が必要な時は何かが犠牲になってのことだし、そういうことも十分に認識しているつもりだから、ワイフの存在が実にありがたいことだと思う。
キーポンとの付き合いで若干時間のロスがあったものの、予定していた工場の制作はほぼ終了し、あとは早朝の作品移動を済ませるだけのところまで片付けた。
問題といえば、指定の用紙に指定の内容に従ってそれなりにそれらしいことを作文しなければいけないということ。

だいたいに、何かのアンケートとか作品解説とか、そういうたぐいのことがいちばんめんどくさくて気に入らない。そもそも、自分の造った表現の何かについて、それに上乗せするように自分から進んでくどくどと解説する必要があるのかが疑問なところだ。アンケートにしても、結局はそれに答えることで何かしらどちらかの方向へコトを仕向けているような様子がチラチラと見え隠れするしそういうことに自分が加担しているようで嫌になる。
「表現」というものはもっとシンプルであるべきだと思う。自分が造った彫刻は、それは彫刻を制作するという行為そのものが自分の表現の全てであるから、それをわざわざ文章にしたり作品解説をしたりと、別の表現媒体に置き換える必要も無いと思うのだ。
まぁ、表現の壁を少しでも低くして乗り越えやすくすることをしておけば、それはそれなりに次の展開への動線になっているのかもしれないが、そのあたりのことはそのあたりのことにストレスを感じないというよりむしろ喜々としてそのあたりのことにハマるタイプの方々をチョイスしておいたほうが八方丸く収まるような気もする。
社会生活の営みの中ではこういう少しめんどくさいたぐいの付き合いも大事なことだと自分に言い聞かせつつこれからその原稿に手を付けようと思っている。
という訳で、Landscape situation ~Seventeen hours~「或る日の情景~あのときの椅子」について、これから指定の様式にしたがって作文させていただきます・・・

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2016-09