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工房むうあと鉄の手仕事

鉄の彫刻家、吉田正純の手仕事、彫刻や展覧会の紹介、万善寺住職活動など、さまざまな日常を公開します。

鉄の抽象彫刻 

2019/11/26
Tue. 16:57

石見銀山で小品彫刻展が始まる時、岡山の小林さんが個人搬入で万成石の彫刻を持ってきてくれた。
彼はしばらくの間島根の奥出雲町へ仕事に来ていて、その頃は比較的頻繁に会っていたのだが、その後仕事が一区切りついて岡山へ引き上げてからは疎遠が続いていた。
奥出雲町には「鉄の彫刻美術館」があって、彼はその美術館の館長をしていたこともある。その縁で昨年まで小品彫刻展を奥出雲町で開催していたのだが、今年の開催は会場の都合が上手く調整できなくて奥出雲を休むことになったから、余計に彼と会う機会が減っていたところだった。
鉄の彫刻美術館でメインの彫刻は、生前アメリカで活躍をしていた下田さんの鉄の彫刻で、だいたい50点くらいは収蔵されていると思う。
私も公的には「鉄の彫刻家」などと大口を叩いているが、下田さんの彫刻のように鉄という素材へ正面から向き合った骨太のモニュメンタルな幾何彫刻とは比べ物にならないほどチャチで軽々しい鉄彫刻ばかり造っていて、恥ずかしいことだ・・・

久しぶりに小林さんの元気そうな顔を見たことで、下田さんの彫刻のことを思い出したし、下田さんの鉄の彫刻からこれまた久しぶりにアンソニー・カロを思い出した。
カロは、ボクの大好きな彫刻家ヘンリー・ムーアの弟子と言って良いかも知れないし、それで、ほとんど忘却の彼方に消え去って雲散霧消だった35年位のボクの彫刻家人生のカケラが少しずつ寄せ集まって一気に造形の刺激が鮮明に蘇った。
勝手で個人的な解釈になるが、彫刻界でのカロはモダニズム活動の先駆者であると言って良いのではないかと思っている。彼の造形表現の根幹は師匠であるヘンリー・ムーアが展開した環境彫刻をよりミニマルな造形へ昇華したものだと思う。
もう、25年位は前のことになるはずだが、東京の現代美術館でカロの彫刻を間近に見た時は造形に対しての的確な構成力とスケールの前に自分の稚拙な表現形態が一気に崩れ引き込まれたことをよく覚えている。そして、上野公園や東京都立美術館で見たヘンリー・ムーアの彫刻以上に抽象性の強い無機的な彼の彫刻が周辺のあらゆる環境に対して冷徹で挑戦的であるように感じた。

今年の小品彫刻展は、徳島を拠点にして鉄を素材に彫刻の制作や発表を続けている武田さんの個展を同時開催した。
吉田の鉄彫刻とは造形上のコンセプトが全く違っていて、一見どちらかといえば、あのカロに近いところに位置する抽象彫刻であるように感じるが、実のところ今までに一度も彫刻表現の根拠についての会話がないから、彼女が何を考えてどのような表現を展開しようとしているのか全く知らないままでいる。鉄という同じ素材と向き合っていても、人それぞれ自分の思うところは同じであることが無いから、それで様々な表現になって様々な造形が出来上がっているわけで、そのことがあるから観ていて楽しめるし、自分への刺激にもなっている・・・ソレはソレで良いのだが、表現の完成度や制作工法のことになると、どうしても造形に対する追求の甘さが目についてしまう。まぁ、それも今後の伸び代が期待できるわけで救いがある。
そこがそろそろ先も見えて老体を鞭打って彫刻と向き合っている吉田と違うところだ・・・

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