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工房むうあと鉄の手仕事

鉄の彫刻家、吉田正純の手仕事、彫刻や展覧会の紹介、万善寺住職活動など、さまざまな日常を公開します。

Tさんのシキビ 

2020/05/18
Mon. 16:05

コロナウイルスのおかげで今までの我が人生で経験したことのない毎日を送っている。
それでも、都市部や市街地に暮らす人々よりは随分と楽に過ごしていると思う。
幸いなことに生まれも育ちも島根県の山間部の小さな集落が集まってできた小さな行政区であったし、成人して結婚して30歳前にUターンで帰省してからも少年の頃の暮らしと大差ない生活に戻ったくらいのことだったから、自分としては特に不自由を感じることもなく子育ても済ませて今に至った。
このままコロナがなければ、彫刻制作や在家坊主の家業もそれなりに惰性で乗り切って歳をとって行くばかりのことだっただろう。
日頃から人付き合いにマメな方でもないし、マイペースに毎日を過ごすことのほうが性に合っているし、人恋しくてしょうがないというわけでもないから、個人的にはコロナの影響もほとんど無いといえばそうなのだが、やはり、いくら末寺の山寺でも法要の中止とか法事の延期とかがこの1ヶ月に集中して重なってくると、たった数千円とか数万円のことでも収入が有ると無いでは営業維持管理に気持ちのゆとりがくなってしまう。それでも、食べることに関しては何かと手間がかかるものの季節の旬へ上手に寄り添って付き合って贅沢を考えなければ1年中食材の絶えることもなく、ありがたいことだと思う。

万善寺の諸仏様へお供えの仏花はシキビにしている。
先代の住職は色物が好きで、季節の花をお供えしていたが、特に夏場になると花入れの水がすぐに溝臭くなって線香の香りに混ざってしまうことが気になって、私はソレが嫌だった。それで、先代住職の足腰が弱って本堂の諸々と縁が遠くなった頃合いをみてさり気なく何気なく少しずつシキビの出番を増やした。
もう、かれこれ30年近く前になるだろうか?そのシキビの自生苗木を彫刻仲間の木彫作家Tさんが送ってくれた。
Tさんは、新潟の確か出雲崎あたりの出身だったかと思ったが、思い違いかもしれない。
彼は埼玉の方で宮大工の棟梁だった。職人さんを抱えてお寺を新築するくらいの立派な経営者でもあった彼は、一方で木彫の抽象彫刻作家でもあった。展覧会のデビューが私と前後して近かったし、アルプやブランクーシや、それに酒が好きだとか、坊主つながりで良寛さんのこととか共通の話題が豊富で、とても親しくお付き合いをしてもらっていた。
展覧会場が上野から六本木へ移動した頃から展覧会の不出品が増えて彫刻制作や出品から少しずつ縁遠くなった。若い頃から持病があってソレが悪化したとか、宮大工の工務店経営が思わしくないとか、そのあたりの「だろう話」くらいしか耳に入らなかったし、直接本人と話のできる機会もないまま少しずつ疎遠になって今に至っている。

彼から頂いたシキビの苗は、その後吉田家の裏庭でスクスクと育って、今は万善寺の仏花で欠かすことの出来ない大切な存在になっている。春に花が咲いてちょうど今時分、陽の光を通すほどの瑞々しい若葉が芽吹いて少しずつちぢれ枯れた古い葉が落ちて交代する。
昨年末に活けた寺の花入れのシキビも花が咲いて散って、それから少しずつ落葉が進んで若葉に変わり始めた。この調子だと6月の大般若経転読法要まで保つだろう。

こうして、Tさんのシキビは半年ごとに活けかえながら万善寺の仏花で生き続けている。

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2020-05