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工房むうあと鉄の手仕事

鉄の彫刻家、吉田正純の手仕事、彫刻や展覧会の紹介、万善寺住職活動など、さまざまな日常を公開します。

血と煙 

2018/12/08
Sat. 04:08

行きつけの開業医は土曜日でも午前中だけ診察してくれるので、朝早くに自宅を出て工場へ行く前にそちらへ回った。

その病院の待合室にはF6からF10程度の風景画やブロンズの小品彫刻が数点飾ってある。ドクターの趣味なのか薬剤師の奥さんの趣味なのか、もしくは税金対策なのかよくわからないが、総合病院によくある統一感のない寄贈品ばかりの展示とか、病院職員や関係者の趣味の作品展示よりはずっと上品で好感が持てる。
吉田家は上の子供がまだ幼稚園くらいだった小さい頃から家族全員でそのドクターの世話になっていて心安くさせてもらっている。確か娘さんがじゅん君と同じ高校で吹奏楽部の先輩後輩の関係だったと思う。看護師さんも吉田家のなっちゃんと同級生の子供がいるはずで、まぁ、狭い街のことだからなんずかんずいろいろ手繰ると普通に何処かで誰かと繋がりが出来てくる。

ボクは、もう何年も前から歩く成人病状態で数種類の薬が手放せない。ソコソコ几帳面に飲み続けてはいるのだが、目に見えて症状が改善するわけでもないし、薬の効果がどの程度なのか判断に苦しむところだが、かと言ってドクターはそれで特に深刻な様子でもないし、結局慢性の持病だと思って死ぬまで付き合うしかないことなのだろうと、今のところ自分で勝手にそう思い込んでいる。急激な体調の変化とか、診察中のドクターの顔色が一瞬曇ったとか、そうなった時はそれなりに病状の悪化を覚悟しよう。

病院が終わったらそのまま工場へ行くつもりで、つなぎなどの作業着一式を用意しておいた。さすがに鉄の埃にまみれた作業着のまま診察を受けることは出来ない。
血液検査の結果があまり良くなくてちょっと気持ちが重たい。
前日に途中で終わっていた彫刻の溶接を続けてカタチが少しずつ見えて、いつのまにか彫刻の方へ気持ちが入り込んで血液検査のことを忘れかけていたところへ、うっかり鉄板の切れ端にグローブを引っ掛けてそのあたりの手の甲に血がにじんできた。傷というほど大したものでもなかったが、ペロリとなめてもしばらく血が止まらなかった。
「これは血液の凝固を和らげる薬ですからね」・・・以前、ドクターがそのような説明をしていた。「そうか!たぶん、高血圧の薬のせいかも知れない・・・」血は鉄の味がした。血の出た傷よりまだ新しいグローブが破れたほうがショックだった。

気を取り直して溶接をしてグラインダーを使っていたら、今度は何かしら焦げ臭い匂いが漂ってくる。近くに燃えるものは無いはずなのにとにかく焦げ臭い。そのうち溶接の紫外線光に照らされて何処かから立ち上る煙が見えてきた。煙がいやに近い!
グラインダーのスイッチを切ってあたりを見回したら、なんと!ボクのつなぎの腹のあたりから煙が立ち上り、左腕の袖口にはチロチロと小さく燻る火が見えた。
焦ってグローブでバタバタと火を消したが、暫くの間ボロ布が燻る匂いと煙が工場に漂っていた。
つなぎの作業着は母親が元気だった頃ボロ布を当てて手縫いしてくれた。少なくても5年以上は前のことだ。さすがに、もう廃棄するしか無い。母親の痕跡がまた一つ消滅する。

IMG_3605.jpg

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