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工房むうあと鉄の手仕事

鉄の彫刻家、吉田正純の手仕事、彫刻や展覧会の紹介、万善寺住職活動など、さまざまな日常を公開します。

暮らす彫刻奇譚 

2020/07/14
Tue. 18:48

昼過ぎから雨脚がしだいに強くなって、それから深夜まで降り続いた。
夕方には猿の集団が吉田家の大屋根を通り道にしてしばらくの間うるさく暴れていた。
石見銀山の町並みの側溝を激しく流れる水音が耳についてなかなか眠れないまま一夜が明けた。

ワイフと二人展で展示する彫刻をしばらく前に駐車場へ移動しておいたのを、この度の主催者から若いスタッフの人力を借りて町並みにある展示場の古民家まで移動した。
鉄の彫刻は雨にぬれても特に問題は無いが、倉庫から自宅の板の間へ持ち帰っていたワイフの彫刻は雨に弱いので移動に気を使った。天気の回復を待って後日配置を完成させる。
搬入作業は1時間もなくて終わったが、その間降り続いていた雨で全身ずぶ濡れになった。帰宅すると「お風呂追い焚きしてあるわよ!」と珍しくワイフが気配りしてくれた。
湯に浸かるのは随分と久しぶりのことだ。「・・・ヤブ蚊が入り込んでくるかもしれない・・・」と思わないでもなかったが、風呂の窓を全開にしてゆっくりと昼間の風呂を堪能した。窓の向こうには大きく枝葉を広げた楓が茂って雨に打たれている。梅雨に入ったばかりの頃は、二枚の羽をつけた種がまだ少しばかり枝先に残っていた。それからあの種はどうなっただろう?・・・

実は彫刻家吉田満寿美であるワイフは学生の頃から本格的に彫刻を制作していて、社会人になってから本気に彫刻の勉強を始めた吉田正純より作家歴の長いベテランである。
彼女の初期は、抽象でも幾何的要素の強い彫刻を造っていた。研究室の教授が金属の抽象彫刻をメインにして制作を続けていたから、講座の演習制作も金属を素材にしたものが多かったようだ。ワイフの先輩で私の同級生のお姉さん(今はおばさんだけど・・・いや、おばあちゃんかな?)も、当時から同じように金属彫刻を勉強していて、今はジュエリーの教室まで経営する実業彫刻家になっている。
ワイフと知り合った頃の私はまだまだ具象色の強い造形制作を続けていたのだが、どこかしら自分の気持がそういう造形に没頭できない違和感もあって、それなりに人並みに悩み多き学生であった。座学の講座や神保町の古本や美術館の企画展とか画廊ギャラリーなどから抽象のアレコレを知識として収集してはいたものの、やはり造形表現の実践で制作をしないままに机上の理論ばかりでは限界がある。抽象表現の混沌としたラビリンスに迷い込んでしまって抜け出せないままやがて脳みそがパニックを起こして悶々と消沈して終わる・・・と、そういうようなことを繰り返しながら20代を過ごしてUターンした。

随分とこなれてこぶしの効いた小気味良く美しい節回しで鶯がひと声大きく鳴いた。
驚くほどすぐ近い。
ウツラウツラしながら適度にぬるい昼間の風呂で昔の思い出に浸っていたのが、一瞬で現実に引き戻された。猿軍団の侵略に憤慨した鶯が自分の縄張りを強く主張したのかもしれない。
風呂の入口で影が揺れて、それからいつにない大声を張り上げてクロが鳴いた。あいつも裏庭の様子が気になるのかもしれない。
今更ながらワイフとの初二人展は、リーフレットに「暮らす彫刻奇譚」とした。

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